「今宵おかしらとDDRナイト」




<1.ダンサー集結!>


その日、バッツはタイクーン城に遊びに来ていた。
正確に言うなら、一応報告をしに来ていた。
彼は今、北部地方の保安部長のポストにいる。
一応パトロールという名目で旅をして回り、
(殆どいないものの)モンスターを退治するのが彼の仕事である。

「旅をまだ続けるにしても、何か肩書きがある方が気が楽だろ」
レナやファリスの計らいで、そういう立場で旅をして、
また月に一度公認で城に行ける…。
バッツにとっては、肩書きはともかく、
城に公認で行く理由ができることが何より嬉しかった。

ちょうどその日は、月一定例のタイクーン城主催の舞踏会ということで、
多数のお客(主に城下町?の皆様とか従業員とか)が詰め掛けていた。

「今日は飲み放題食べ放題だからな。遠慮なく楽しんでいってくれよ、バッツ」
「ついでに踊り放題もね(ああ…久々に姉さんの華麗な舞いが見れるのね)」

報告を終えたバッツをねぎらうように、正装した2人が
王座から降りてきて、声をかける。

「ありがとな…本当にいい時に来れて良かった。2人のおかげだよ」

たまに野宿の日々もあったせいか、それを聞いて急に元気になったバッツであった。

そして夜――――

「では皆の衆、心置きなくお楽しみ下さい」

大臣の挨拶でパーティーが始まった。

普段は玉座もあり、厳かな雰囲気の広間も、
この時ばかりは玉座も取り去り、
代わりにあふれんばかりの料理と酒と、
派手な照明が並ぶダンスフロアに様変わりする。

普段は物々しい鎧を着た衛兵や礼儀正しく所要をこなす侍女たちも、
派手派手しい衣装に身を包み、音楽に身をまかせて踊り出す。

当然さっきまで正装だった3人も例外ではない。
当然のごとく「踊り子」にジョブチェンジして、
着慣れた最高の衣装でダンスフロアに姿を見せた。

「おーもう始まってるのか…すごい人だな…」
派手な赤いシャツを着たバッツが、驚きながらつぶやく。

「いつもながら賑やかだな。こうでなくっちゃ踊りがいがないよ」
水色がかった袖口のひらひらした、胸元の開いた服を着て、
わくわくした様子でファリスが答える。

「姉さんもバッツもいるからな…今日も楽しく踊れそうね…」
スリットの隙間から足をのぞかせながら、濃紺のドレスに身を包んだ
レナが、早速行こうと言わんばかりの口調で語った。

「じゃ、まずは2人で行ってきな。オレは大臣と話があるから」
ファリスが譲るような形で、そうバッツとレナに言い残すと、
大臣の方に走っていった。

「んーじゃあ踊ろうか? バッツ?」
「そうだな…あ、くれぐれもジルバは踊るなよ。周りの人が倒れるから…」
「あ、そうだったわね… 前はあのせいでとんでもないことになったから…」

先日ルゴル村のパブに行って朝まで踊っていた時、
「2人のジルバ」を踊っていたら、HPを吸い取られて
周りの観客が倒れてしまったのだ(マスターは無事だったが…)。

ちょうど曲がタンゴになったので、これで踊ることにする。

ステージの中央から離れた所で踊っていたが、
息の合った美しい舞いに魅かれて、自然に人が集まっていく。

「なんか人が集まってるぞ…」
「『剣の舞い』は出ないから大丈夫よ」
「前に踊った時より上手くなってるな、レナ。練習してるのか?」
「王室同士の舞踏会とかで踊る機会が多いのよ…
踊るの上手いからって姉さんもよく誘われるし。
そういうバッツだって腕が上がってると思うけど…
どこかのパブで可愛い踊り子さんでも見つけたのかしら?」
「なっ…(思い切り赤くなって)そんなことないって」
「でも、トゥールの村の踊り子さんと一緒にいたっていう証言があるんだけどな〜」
「普通に話してただけだって…」

踊りながらも2人の会話は続く。

そして曲が終わった。決めのポーズもしっかり決まり、
ギャラリーから賞賛が…と思いきや、やけに静まりかえっている。

「倒れてる…」
「また、やっちゃった…?」

メッセージウィンドウ:観客は「魅惑のタンゴ」でぶっ倒れてしまったようだ…。

「うう…じゃあ何の曲で踊れというんだ…」
「『終末のユーロビート』とか『沈黙のテクノ』」とかはなかったと思うから、そのあたりで…」
「そんなん流れるのか? 舞踏会で」
「後半とかで流れる予定よ。後半はディスコに変わるから…」

曲目はさておき、観客を復活させないといけない。
「レナ…アビリティ今何?」
「あ、『かくとう』だ…護身用なんだけど」
「(あいかわらず恐ろしいやつ…)じゃ、おれが『白魔法』だから…『エスナ』!」

メッセージウィンドウ:観客は全員復活した。

「さすがね…白魔法のスペシャリスト」
「本来回復魔法なんだから、レナがかけるべきなんじゃないのか?」
「私は攻撃専門だったから…そういえば私、白魔法アビリティないわ(汗)」
「おれが本来攻撃のはずなのに…(白・時アビリティ全て持ってる)」

過去の冒険を思い出しながら、何事もなかったかのようにその場を去る2人だった。


場に戻ると、ファリスが飲み物を片手に2人を待っていた。

「ずいぶん派手に踊ってたじゃないか(笑)。ここからよく見えてたぞ」

周りの人が倒れるから、目立つのも当然だ。

「じゃ、踊りに行こうか。バッツ?」
「おう、OK」

疲れを感じてない様子でバッツはファリスの誘いに答えた。

「えー姉さん、私じゃないの??」
「おまえ今バッツと踊っただろ? オレも久しぶりに会うんだから…な?」

涙ながらに(嘘?)懇願するレナをなだめるように、ファリスは答えた。
そして2人はステージへ…

「あーあ。しょうがないから私も何か飲もうかな」

立ち直って料理のテーブルの方に向かうレナだった。

ステージ上に2人が来た所で、音楽はワルツに変わっていた。

今回も同様に人が集まっていく…

「大丈夫かな…?」
「MPは減ってもあまり気づかないだろう。心配するな」

先程の悪夢が甦る。

「相変わらず踊るの上手いな…ファリスは」
「おいおい、いきなりなんだよ?」
「前に踊った時より、上手くなってる。舞踏会とかで踊ってるってレナに聞いたけど…」
「まあ、社交辞令ってやつだな。踊るのは好きだが、少しは相手を選びたいよ」
「結構苦労してるんだな…」
「苦労ってほどでもないけどな(笑)。バッツはどうなんだよ?」
「そうだな…おれも似たような感じだよ。ファリスやレナと踊るのはなんか特別って感じがする。
女の子と踊るのはいつでも楽しいけど…(汗)ばれてたのか? トゥールの事」
「ははは。その方が普通だよ。一人旅ってのも楽じゃないよな」
「たまに寂しくなる時があるから…だから城に来るのは楽しみだよ」
「じゃあ城に就職するか? 衛兵の訓練とかやってくれよ」

踊りながらも話は続く。
息の合ったダンスに高まる2人の一体感―――
それがさらに踊る2人を熱くしていった。

そして曲が終わり、周りからは盛大な拍手が送られた。

その観客に応える2人。

―――その2人をうらやましさ100%という感じで、
レナが見つめていた。多少ほろ酔いの状態で。




<2.なぜここにDDRが?>



その後、レナは踊れる状態じゃないということで、
そのまま酒と料理を持ってきて、近況報告に突入した。

「ねー私大丈夫だから…踊ろー、姉さ〜ん…」
「目が既に泳いでるぞ…(苦笑)」
「こんなに飲んでたのか、レナ…」

傍らに積まれた、飲みかけのカクテルやらワインやらの
ビンを見て、バッツがレナの具合を気づかった。

久々の再会ということで、話題は尽きることがない。

「…でね、そのドラ息子が姉さんに『好きだ…』とかって寄って行ったから、さりげなく『王子、私と踊りませんか?』って
言って引き離したのよ。その後ね、彼を目が回るほどに回転させて、二度と立ち上がれないようにしたの」

酔いが早くから回っているせいか、過激な話がレナの口から飛び出す。

「おいおい、あまり大きな声でしゃべるなよ。でも、本当の事言うとレナのおかげで助かったよ。
あまりにしつこいからどうしようかって思ってたから」

レナを抑えつつも、今日は無礼講。ファリスの話も十分特ダネ(?)。

「…大臣に報告書書くだろ。でも今月は本当に何も事件がなくてさ、しょうがないから先月の内容を順番変えただけで書いたんだよ。
で、提出したら『よく書けてるね』って大臣に言われて…。大丈夫か? 大臣は」

バッツ君、大臣はまだ起きてるよ(汗)。

話が進むうちに酒の量も増えていく。
そして、だんだん話の内容も本音トークが飛び出してくる感じに…。

「バッツは姉さんが好きなの?」
「え…そりゃ好きだよ。そういうレナはどうなんだ?」
「好き…ああ、もしファリスが男だったら、遠慮なく付き合えるのに…」
「レナ、それ以前にオレら姉妹だろって…」
「愛の前にはそんなの障害にならないわ…ゴロゴロ…」
「バッツ、助けてくれよ…(すがるような目つき)」
「じゃー、早めに結婚するか…」

ファリスにすがりつくレナと、それを困り顔で見るバッツだった。

その時―――

「あれ? ファリス??」
「姉さん? ねえ姉さん??」

ファリスの声がない。変わりに小さい寝息が聞こえて来た。

「すー…すぅー…」
「寝ちゃった…」
「部屋に運ばないとな」

2人がそう言ったところで、ほぼ同時にファリスの肩に2人の手が伸びた。

「おれが運ぶよ。レナは休んでな。酔ってるんだろ?」
「…もう落ち着いたから大丈夫。城の中は私が良く知ってるから…私が運ぶわ」
「こういうのこそ男の役目だろ?」
「バッツが行ったら何するか不安だし…」
「おいおい、レナだって人の事言えるかよ??」

しばらくいがみ合いが続いた―――。

そして、レナが口を開いた。

「じゃあ、勝負しましょう。ついてきて」
「え…勝負って…何でやるんだよ?」
「いいから、早く来て。姉さんはそこのイスに休ませておきましょう」
まだ興奮覚めやらぬダンスフロアと、流れるユーロビートを横目に
レナは階段の方へ走っていく。バッツも後を追った。

いくつもの階段を上り、外の月明かりが見えて来た。
そしてバルコニーに続くドアを開けると…。

「着いたわ。これで勝負しましょ」
「…な、なぜこんなところに…」

ドアを開けると、吹き込んで来た冷たい夜風で酔いが一気に冷めた。
そしてバッツの目に飛び込んで来たのは…

夜の闇の中で照明が輝く、DDRの筐体だった。




<3.BATTLE>



「見たことあるでしょ? ルゴル村でもやったわよね」
「ああ、あるけど…なんでここに? 買ったの??」
「王女って言うのも、忙しくて出かける暇がなくてね…。お金使うにしても、
たまにこういうのを買うくらいしかないのよ…って、実は城のみんなに楽しんでもらってるんだけど」
「城をゲーセンにする気なのか?」
「今度はサンバのゲームも買う予定よ。それはさておき…」

レナは矢印の書かれたステージに立ち、バッツを招いた。

「勝負は1ステージだけ。BATTLEモードで点数の多い方が勝ち。
ただ、経験が不公平になるといけないから、RANDOMモードね。
で、勝った方が姉さんと一夜を共にすると…わかった?」
「あの…単にファリスを寝室に運ぶだけだろ?」
「あー細かいことはいいから、早く上がって上がって」

どうやらレナ一人が先走っているようだが…。

とにかく、ここで勝たないとファリスがどんな目にあうかわからない…。
「勝たねば…」
バッツの顔が真剣になった。

「あ、曲も公平にするため、ルーレットで決めるわね」
「あれ? ルーレットって2ndにしかないんじゃ…」
「細かい点はいいから、さて…」

「ルーレット」を選択して、決定ボタンを押した。
激しいイントロと共に出て来た曲は…
「SKY HIGH」

レナがちらとバッツの方を見て一言。
「ふふっ、勝ったわね。私はユーロ系の曲は全部練習してるのよ」

バッツも負けじと返す。
「トゥールの村でこの曲やってたからな…そうはさせないぞ」

その間に最初の矢印が見えてきた。

2人の腕前はほぼ五分五分というところ。
あらゆる方向の3連符が連続して出現する、
体のバランスを崩しそうな曲だが、
次の方向を先読みした上でステップを踏んでいく。

しかしながら、酔いの後遺症か、レナのステップが少しずつ
ずれ始めていた。僅かながらGREATの割合がバッツより多い。

(まずい…足が言うこと聞かない…コンボが切れたら負ける…あ、そうだ)

「この場にぴったりの曲ね。SKY HIGHって。ねえ?」
とっさにレナが口走った言葉。

踊ってる最中に何を…とバッツは気にも止めなかったが、
一瞬それで画面から注意がそれ、視線が画面の外に向いた。
「え…ここって…?」

その瞬間、

「Oh,NO! Combo Stop!!」
の声が2回、ほぼ同時にバルコニーに響いた。

レナは酔いの限界でうっかり矢印を踏み外してしまったものの

、 何とかまだ曲の流れについていけている。
しかしバッツは、足が完全に1テンポ遅れたままになった。
画面を見て、曲を聞いてテンポを戻すことができない…。

「なんて高いんだ…」

そう、バッツはそれまで気にも留めなかった
眼前の風景で、高所恐怖症が再発してしまったのだ。
その恐怖が、頭の中から離れない。
思うようなステップが踏もうにも踏めない…。

まるで意識してないギャラリーを意識したとたん、
体の動きがぎこちなくなるように…。

そのままステージ終了。
点数は言うまでもなくレナの方が上回った…。
「…風が気持ち良いからここにDDRを置いてたけど…
まさかこんなところで役に立つとはね」

レナは無邪気にはしゃぐだけだ。もはや頭は姉さんの事だけ…。
「ああ、姉さん、待っててね。熱い夜はこれからよん〜!」

「うう、すまん、ファリス…」

バッツはステージ上で崩れ落ちたまま。
その時、バルコニーのドアが開き、聞きなれた声がする。

「ここにいたのか?!」


<4.再戦>



ファリスがそこにいた。
声の調子からして、すっかり酔いは覚めたようだ。

「姉さん、体の具合は…酔いは大丈夫なの?」
「いや…まだ少しふらつくけど、大丈夫…」
「早く寝ないと…私が付き添うから、ね」

さっさとファリスを連れ込もうと(笑)しているレナであった。

「ところで、何やってたんだ?2人で」
まだステージ上にいたバッツに、ファリスは問いかけた。

「実は…勝った方がファリスを寝室に連れて行くって話になって…」
バッツが事の顛末を語る。当然、寝室に連れていった後の事も(爆笑)。

「おまえらなぁ…本人がいないのに勝手にやるなよ」
すっかりファリスは呆れ顔だ。
「ごめんね、姉さん。先走ったのは私だから…謝るわ。
とりあえず早く寝ないと…」

姉さんには素直に謝るレナだった。

「まあ、いいさ。それはそうと…オレに勝ったら、
オレの寝室に来てもいいぞ、レナ」
「え…」
突然のファリスの提案に、レナは耳を疑った。

「おい、ファリス、そんな状態で…」
バッツが止めに入る。
しかしファリスは構わずDDRの方に出て来た。
そして傍らにいたバッツに一言。
「ちょっとレナをこらしめてやるよ。大丈夫」
といってバッツにウィンクする。

「ファリス…」
無理に引き止めようとしたが、バッツはそれ以上言葉が出なかった。
ファリスの言葉が自信ありげだったのもあるが、
あのウィンクに魅了されたのが最大の原因だった…。

「じゃあ、さっきと一緒で、1ステージで得点の多い方が勝ちね」
ファリスの真意は分からないが、もし勝てば…
そう考えただけで、いやがおうにも張り切るレナだった。
あまりに張り切るせいか、決定ボタンを押す手も震える。

速いテンポでイントロの声が流れるその曲は…

「HERO -HAPPY GRANDALE MIX-」

心の中でレナがつぶやいた。
(ユーロ系、しかもハイスピードの曲…。酔いはほとんど覚めたし、
本当に勝てるかも! 待っててね、姉さん…)
既に勝ったつもりでいる…。

その時、不意にファリスがレナの方を見て語りかけた。
「レナ…本当のダンスってのを、見せてやるよ」

それを聞いてなお張り切るレナだった。コメントも珍しく勝ち気になる。
「さっきは一緒に踊れなかったから…その言葉そのまま返すわ」

その間に既に矢印が出ている。
イントロを過ぎて前奏とともに、連続踏みが襲ってくる。
全く臆する事なく、2人はそれに反応する。
しかも手振りを合わせる余裕すら…。

「すごい…」
それを眺めていたバッツの口からも、自然と賛辞が漏れる。

曲が進んでも、2人のペースは落ちる事がない。
順調にPERFECTを並べ、点数もうなぎ上りである。

ところが、レナの様子が誰の目にも明らかに、おかしくなっていた。
画面ではなく、隣のファリスの方を見たまま、視線が離れない…。

「Oh,NO! Combo Stop!!」
その声でようやくレナは我に返ったようだが、既に遅かった。
「しまっ…」
声を上げる間もなく、ハイスピードで流れる矢印がレナを襲う。

そしてステージ終了…。
気づいてみればファリスはフルコンボで終了。
AAランクに歓声も上がる。

「大丈夫か? ファリス??」
思わずバッツはかけ寄った。
「さすがにちょっと疲れたかな…はは」
ファリスは髪をはらいつつ、バッツに寄りかかって体を支えた。

「なぜ? …あの状態でミスするなんて…」
先程のバッツのように、ステージ上にレナは崩れ落ちていた。
自分の負けが信じられない様子で、視線も定まらない。

「じゃ…オレが勝ったから、オレは部屋に戻るぞ。
バッツ、悪いけど肩かしてくれ…」
「ん? ああ。よっと…」
バッツに体を支えてもらって、ファリスはバルコニーを後にした。

レナが我に返ったのは、それからだいぶ経った後だった。
「あれ…私どうしたの? 姉さんに負けて、で、姉さんは…
…まずい!! バッツが部屋に…」
走って中に戻ろうとしたが、そこに人影が…。

「ここにおられましたか、レナ様」
「あ…大臣…」

舞踏会も終わり、後片付けと後始末も済んで、
寝ようとした所でレナが行方不明のため、大臣が探していたわけだ。

「サリサ様はもうお休みのようですし、レナ様もお休みになられて下さい」
「わざわざありがとう。大臣」
本音としては「さっさとそこをどいてくれ」なのだが…。

「あ、後片付けお願いしますよ。レナ様。じゃ、私はこれで…」
「は、はい…」

完全にバルコニーに置き去りにされたレナだった…。
体に吹き付ける夜風が、妙に痛く感じた。


<5.本当のDDRナイト>



「ふう…着いたか」
「ありがとな、バッツ。もう大丈夫だ」

抱きかかえてたファリスをバッツがベッドの上に降ろした。
いくらファリスが軽いとはいえ、一番上のバルコニーから運んでくれば、
バッツも疲れるはずだ。
そのままファリスを降ろしたベッドの上に、ばたっと倒れ込んだ。

酔いが残っていたせいか、バッツはそのまま寝てしまった。
ファリスもそれを気づかいながら、ダンス疲れで夢の中へ…。

どのくらい眠っていただろうか。
バッツはしばらくして目が覚めた。
外はまだ真っ暗で、少し酔いの残りで寝てしまったようだ。
隣を見ると、うとうとしているファリスがいた。
綺麗な寝顔を見ながら、さっきの彼女の舞いを思い出す。
ギャラリーしていた自分も引き込まれそうなダンスだった…。
舞踏会で言葉を交わしながら踊っていた時とはまた違う、真剣な表情…。
今の寝顔とあの時の表情を思い出しつつ、一人悦に入っていると、
ファリスが目を覚ました。

「ん…目覚ましたのか? バッツ?」
ファリスがまだ視線の定まらない様子で、バッツの方を見る。
「眠いか?」
「いや…今ちょっと寝たし、それにさっきの熱気が残ってるから…」
「じゃ、ちょっとオレの部屋で話でもするか。ちょっと待ってて」

そう言ってファリスは部屋を出た。
しばらくして戻ってくると、手にはあふれるほどの酒や食べ物が…。
「会場に大量に残ってるから、持ってきたんだ」

それを食べながら、先程のダンスの話をする。
「さっきはすごかったなー。ふらついてたのに、レナに勝っちゃったし」
「オレもあそこまで上手く行くとは思わなかったけどな…
まさかあんな簡単に『いろめ』が効くとはな」

そう、「見せてやるよ」とレナに言った後のダンスで、
ファリスは時々『いろめ』を盛り込んでステップを踏んでいたのだった。
飛び跳ねまくるあの曲で、
ふとファリスの姿がレナの目に入った所で…
ものの見事にレナは魅了されてしまったわけだ。

「すごいテクニックだな…どうりでおれも引き込まれそうだったわけだ」
「ま、あいつが邪念が多すぎたってのもあるだろうな。
おそらくダンス中もオレの事だけ考えていたんじゃないのか?」
「そりゃ、本人に『部屋に来ていいぞ』って言われればな…」

しばらく楽しい語らいは続いた。
そして話題も尽きかけた所で、ファリスが問いかけた。

「さて…もう一度踊らないか?」
「え? もう寝るんじゃないのか?」
「もう一汗かいてからのほうが、眠りやすいだろ」

そう言ってベッドの下から、マットを取出した…。
「なんと、ここにもDDR??」

ファリスが取出したのは、家庭用のDDRマット。
「ファリスも練習するのか?」
「これもダンスの一つだよ」

準備が整い、2人並んでステージの上に立った。
「曲は…じゃ、最初はオレが選ぶか」
「ちょっと酔いが残ってるから、あまり激しいのは無しな」
「大丈夫だって…よし」

派手なベース音のイントロで始まるその曲は…

「IF YOU WERE HERE」

(へえ…こういう曲はレナの独壇場と思ってたけど…
意外にファリスもやるんだな)
そう思いながら、バッツはステップを踏み始める。
しかし、様子が変な事に気づく。

「矢印が変だぞ…」
「これはユニゾンだからな。息合わせろよ」
「ユニゾン…?」

ユニゾンは2人が同じタイミングで
矢印を踏む箇所が入っている。

それを意識すると、相手の動きに自然と目が行き、
相手と同じタイミングで自分もステップを踏める。
そして振り付けも、自然と隣にいるファリスと同じ動きを取るようになる。
先程の舞踏会で踊っていた時に感じた一体感とは、また違った感覚…。

それに身をまかせるうちに、曲はサビに入っていく…。

「If you were here with me...」

聞き慣れたその歌詞が流れた所で、ふとファリスの方を見ると、
ファリスが微笑んだ。
その意味を考えつつ、最後の決めのポーズを合わせて、ステージが終了。

「ファリス。曲の途中で、なんでおれにほほえんだんだよ?」
そうたずねられて、しばらくファリスはバッツの顔を見つめたままだったが、
少しして口を開いた。

「バッツへのメッセージだよ」
そう言ってしばらく2人で見つめ合っていたが、
照れを隠すようにファリスはうつむいてしまった。

しばらくバッツは考え込んでいたが、
意味を理解した所で急に赤くなった。

「そ、それって…」
何かを話したいが、言葉が続かない。
自分の想いをファリスに伝えたいのに…。

―――しばらく沈黙が続いた。

その後急に何かに気づいたように、バッツが曲を選び始めた。
ファリスはうつむきながら、バッツの言葉を待つばかり…。

しばらくして、バッツがファリスの肩に手を置いて、
彼女の目を見据えて声をかけた。

「上手く言えないけど…これがおれの答えだよ」
そう言ってバッツは画面の方を向いた。

その画面に出ていたNEXT STAGEの曲は…
悲しげなイントロと共に流れてくる曲は…

「Love Again Tonight」

Can't believe... you are here...


師匠よりコメント:

ふう…なんだか予想以上に長くなってしまいました。
最初はメールの本文に軽く載るくらいの、ちょっとした
小話にしようと思っていたのですが、
曲の解説やらダンス中の心理描写とかに
凝りすぎたせいで、間延びしてしまったですね…(反省)。

曲の方ですが、選曲は私の気に入った曲だけが並んでます。
いかに私の趣味が偏っているかがわかりますね…(苦笑)。
DDR知らない人にこれが受けるかどうかは疑問ですが、
なんとかDDR絡みのお話にはなったと思います。
あ、ただ「SKY HIGH」は完全に計画通りです(笑)。
あの場面にちょうどいい曲があって良かった…(のか?)。

実を言うと、話の各所に掲示板や自分のサイトで
書いていた事を盛り込んでいます。
「北部治安維持」の報告を口実に城に出入りするというのは
結構前に掲示板で出た話でしたし、
「高所恐怖症」はつい先日掲示板で出たネタですし、
「いろめ」でレナが魅了される所は、
逆パターンをファリスもやられているし(ジョブ診断21回目 )、
ルゴル村は完全にダンスの避暑地になっているし、
バッツが白魔法専門でレナが攻撃専門というのも
「プレー日記」での私のプレイ結果だし…。
他にも随所でネタを引用してます。
いわば、皆様のおかげで独自のFFワールドが形作られていると
いってもいいと思います。

曲名でメッセージのやり取りというのは、
単なる思い付きです。
実は他にもアイディアがあったのですが、それを全部入れると
そこだけ長くなり過ぎて、バランスが取れないので…
(「ONLY YOU」とか「BOYS」とか「EAT YOU UP」とか
「DO IT ALL NIGHT」(笑)とか…)

最後の「LOVE AGAIN」の歌詞は、
ひょっとしたら間違ってるかもしれません。
少し前にDDR4のサントラを借りて、
一部の曲の歌詞を確かめたのですが、まだうろ覚えで…。
ちょうどそれを聞きながらこれを書いてます。
やはり名曲ですわ…(気分はステージ上)。

あ、下の部分は削除した最後の部分の一節です。
笑ってやって下さい(命知らず)。

<6.どうでもいい部分>

その頃、バルコニーでは…
「どーやってバラすんだったっけ…えーん、今ごろ姉さんは…ううう」
台の分解方法を忘れたレナが、まだ工具を持って格闘してました…。



魚:さすがです師匠!
期待どうりの逸作、どうもありがとうございましたーーー(^▽^)
背景設定が素晴らしい上にそしてDDRを織り交ぜての展開が上手v
私が作ったらこんなに要所要所両方の魅力を醸し出すことは
できないでしょう(><)絶対進むうちにどっちかに偏っちゃいそう・・。
個人的にレナさんが相変わらずはじけまくってて大好きですv<6>には
笑わせてもらいました(>▽<)でもバッツの高所恐怖症を煽らすのは 反則じゃ!(笑)
読んでると彼らはめちゃ上手だということが分かりますね!
コンボが切れた!って嘆いているくらいだから全繋ぎは当たり前?
参りましたー!しかも個人的にSKYHIGHは良い点を取れてないので
こりゃぁやられたなって感じっす!(笑)あの曲は本当あそこで
(高所恐怖性系)出す価値ありですねv(更笑)
バッツの真っ青どころぢゃなく真っ白になった顔を
容易に想像できますね・・ギャラリーいて振り返った時・・確かに 似ているかも(笑)
メッセージやりとりは思いつきとおっしゃる師匠ですが
それにしても上手いですねvイカしますよ(^^)
そういえばバッツとファリスに捧げたい(ピッタリな)曲って
探してみたらぎょうさんあるかも!「DO IT ALL NIGHT」は第一候補!(笑)
分かりやすいですv(笑)あとちょっと変えて
「OH BUTZ PLEASE NOT SO QUICK」・・ぐふ(誰かに背後から突かれる)
ええ、もちろんE方面だけでなく(爆)
本当にどうもありがとうございました!めっちゃ楽しませてもらいましたv
そんなつや師匠のおうちはこちらv→

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送